レース後のENAさん・ARATAさん。
「ちょー楽しかったよ!!」
それが答えだ。
ENAはぴゅーっと行ったから、
僕はARATAの背中をずっと見ていた。
背中しか見ていなかったが、
彼はずっと気持ち良さそうだった。
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実は、彼は忘れているかもしれないけど、運動会のリベンジ的なところもあった。
レースにエントリーしたのは、運動会が終わったあと。
そのときの会話は以下の通り。
ARATA「全力で良いの?」
僕「良いよ」
ARATA「よっしゃー!!全力!」
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彼は5才だから、来年が園で最後の運動会となるはずだったが、僕らは4月に富士吉田市に移住するから今年が最後の運動会となった。
彼はずっと、リレーでアンカーをやって、勝つつもりでいた。
思いは招き、彼はアンカーを任された。
(後になって、彼がアンカーに立候補して、任されたのだと知った)
しかし、運動会で彼は負けた。
アンカーの彼のもとにバトンが渡ったとき、それまでいろいろあって、すでに半周差がついていた。
負けず嫌いな彼は、悔しそうにバトンがくるのを待っていた。
待ちきれずに、線いっぱいのところまで前にでて、バトンを受け取った。
思いきり加速した。気持ちが前にでていつもと違うめちゃくちゃな走りだった。みるみる差を詰めたが、届かなかった。
ゴールすると、先生は彼の手をあげ、皆を祝福した。
負けたが、盛り上げてくれた先生のおかげもあり、皆ワーワー言っていた。
彼は悔しそうで、憮然としていた。
リレーから戻ってきた彼になんて声をかけようか僕は迷ったが、聞いてみた。
「どうだった?」
「楽しかったよ!でもちょーくやしかった!負けたかんね!」
僕は安心した。
そして何日かして、彼にこのレースのことを伝えた。
彼は、「でるでるー!!」と即答し、僕に冒頭の問いかけをした。
ARATA「全力で良いの?」
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レース後、僕は先輩風を吹かせて彼に言った。
僕「全力は気持ち良いだろ?」
ARATA「全力が良いのは知ってた!レースがこんなに楽しいのは知らなかった!」
僕「良かったなぁ。次はどうする?」
ARATA「SKIのレース!見つけてくれた?」
僕「今探してる。今日中に見つけるよ」
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一歩を踏み出すのは誰か?
親じゃない。ペーサーじゃない。サポーターでも監督でもない。
一歩を踏み出すのは本人だ。
そして、その一歩が全力かどうか、本人にしかわからない。
ただ、なんとなく彼は全力の味を知っている。
だからこれからも全力で。
GO!