人が変わる瞬間は、死ぬそのときまで何度もある。
僕にとって一番最近のそんな瞬間は、一昨年の12月のことだ。
息子と初めてSKIに行った日。
僕はとあるきっかけでSKIMOという競技に興味を持ち、
ギアをそろえて、とりあえず滑りに慣れておこうとゲレンデに行くことにした。
それは、たまたま息子を僕が見なければいけない日で、
僕は渋々息子を連れて行った。
僕は気ままに独りで滑りたかったので、
息子をスキースクールのコーチに一日預けた。
一日が終わると、コーチは目を丸くしていた。
息子は、午前7本午後10数本滑ったらしい。
「本当に初めてSKIを履いたんですよね?
私がいままでみた中で新記録です」
そして。
どうしてそんなに滑れるの?と尋ねたコーチに息子は答えたそうだ。
「オリンピックにでるからだよ」
まさかと思った。
帰路の新幹線、僕はお金をケチって自由席を取った。
それが満席で、僕は息子と荷物のうえに腰を下ろした。
くたくたになっている息子に申し訳ない気持ちになった。
けれど、息子は満足そうに言ったのだ。
「とーちゃんさ、いままでで一番たのしかったよ」
まさか。
どうして僕はケチったのか。
それよりも。
どうして僕は彼が生まれてから
彼との時間を削りに削って自分のためだけに使ってきたのか。
仕事と趣味に没頭したのか。
僕は父親としての自覚から逃げていたのか。
父親になる勇気がなかったのか。
僕はうしろめたさでカラカラに乾いた声で何とか言った。
「ほ、本当に?」
ほとんど寝入りながら、ARATAは答えた。
「うん。今まで生きてきたなかで一番たのしかった。おもしろかったよ。」
この瞬間、何かが変わった。
僕は父親だったのだ。
ふたりのゴキゲンな滑りをみると
あの瞬間を思い出す。